上杉アイクの机上で空論

独特の感性で森羅万象を考えます

エヴァとエフィロートの樹:2 赤い海

 「エヴァンゲリオン新劇場版:破」はTV版に準じたシーンの他に、劇場版で初めて描かれたシーン・展開があります。
 大きく分けて「弁当のシーケンス」と「海洋生物研究所」の2つです。

 弁当シーケンスは短い尺で3号機の一件からニアサードインパクトまでを劇的に見せるために効果的でしたが、海洋生物研究所はわざわざ描写するくらいですからセカンドインパクトや弁当シーケンスへのつなぎだけでなく、その他の意図があったと考えるのが妥当でしょう。

 まあ、始めにこのシーンが出るくらいですから、セフィロートの樹を基幹とするエヴァ考察の重要な手がかりとなるでしょう。
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 セフィロートは「上から下」へエネルギーが降りてくる、逆に「下から上」に昇れば上位の存在になる、というのが基本です。タンクの配置から上の方が青い海、下の方が赤い海であることが分かります。ケンスケが「赤く染まった海を元に戻す禁断の聖地」と言っているので、国際環境機関法人日本海洋生態系保存研究機構:海洋生物研究所の目的が赤い海より上位青い海に変えることであるは明白です。
 その他、研究所以外の描写からエヴァの世界から赤(暖色系)が下位(人間側)、青(寒色系)が上位(神様側)のシンボルだったのです!!

 ちょっと待て、長々と勿体付けといてツイッターでも説明できそうなショボイ結論書いてんじゃねーよ!!
 そう思った方が大半だと思います。しかし、あくまでセフィロートの樹は考察の道具。実際、赤が下位、青が上位というだけでは説明が付かないシーンがたくさんあります。
 不明点1:「序」や「破」の途中まで「赤い海はセカンドインパクトによって海洋生物がLCLと化したのが原因なのではないか」と思われていましたが、リョウジは赤い水を差して「何の臭いもしない水」、青い海の臭いを「生物が生きた証」と言っていました。つまり、LCLを普通の水に変えているのではない。
 不明点2:研究所の中では魚から亀、ペンギンに至るまで様々な海洋生物が再生されていました。海洋生物が「死滅」した状態で15年くらいの短期間の間に可能なのでしょうか?
 不明点3:宇宙でのゲンドウと冬月の会話で、ゲンドウ「(赤い海やセカンドインパクトのガフの扉を差して)原罪の穢れなき浄化された世界」、冬月「人で穢れた混沌とした世界を望む」とそれぞれ話していました。この場合二人の認識では(このままでの解釈では)→上位、→下位と逆の認識になってしまう。

 これらの疑問は「破」まででは解消される事はありませんでした。実際、研究所のシーンの後にゲンドウと冬月の会話を聞いて、「実は青い海を赤く染めていたのではないか?」とまで思うこともありました。
 それを解消し、「エヴァセフィロートの樹」や赤い海の謎を解消する考察を可能にした最大のファクターが「L結界」です。

 海や「Q」での大地を赤く染めていて、リリン(リリス由来の生物)の生存を許さないL結界。
 実際、「Q」では「L結界によって人間が立ち入れない」、前述のリョウジの言葉から「生物の生きた証がない」とされていますが、「L結界に生きている生物が立ち入ったらどんな目に遭うか」までは明示されていません。
 実際、単純に「L結界に立ち入ったら死ぬ」とは思えません。もし死んだら「死んだ臭い」即ち「生きた証」が残るはずです。また、「消滅する」だったらL結界状態を解除しても生物の再現は不可能です。

 「生きた証」がない。L結界が解消できればそれまで生きていた生物が再現できる。→下位、→上位の世界で→上位、→下位の認識。
  これらの疑問を解消するL結界の性質、それは「立ち入った生物を生きていない状態にする」です。

 え?何それ?死ぬのと同じじゃないの?
 「生きていない状態」と「死ぬ」は厳密には違います。
 リョウジの言う通り、「死ぬ」ということはそれまで「生きていないといけない」のです。
 それでは「生きていない状態」とは?
 では皆様は「目の前の人間が生きているか?」というのはどうやって判断しますか?例えば手足が動いている、頭と胴体がくっついている、脈をとる、心電図を見る。変な例えで申しわけありませんでしたが、とにかく、「他者が生きているかどうか?」を判断するには「その人以外が生きている事を何らかの形で証明する」必要があります。
 では「その人が生きている(いた)事をどんな方法をもってしても証明できない」のであれば「生きていない状態(≠死んでいる状態)」となるのではないでしょうか?
 コップに水とメダカみたいな小魚が入って入っているとします。普通の水なら泳ぐメダカや死んでしまったメダカを見る事が出来るでしょうし、何らかの理由で見えなくても、機械を使ってメダカが発した振動とか微弱な電気信号とか水質の変化とか、そういったもので「メダカが生きている(いた)」事を証明=観測できます。
 しかし、L結界状態になると上記のいかなる方法をもっても、まるで結界が隠しているようにメダカを観測できないのです。一見「ない」ように見えてもバックアップ状態で暗号化されていて、ちゃんとした手順を踏めば元通りになるデータみたいに・・・
 当然普通の人間が立ち入っても、「いない人」になるので「危険な領域」変わりはないでしょう。 
 TV版のラストの赤い海はLCLであり、「肉体が無くなって魂が分離している」状態なのでL結界状態とは根本的に異なると言っていいでしょう。
 
 これなら作中における疑問点を説明することができます。
 生きている事の証明はもとより、海洋研究所がL結界状態を解除すればその時生きていた生物は再現可能でしょう。ゲンドウが言っていた「浄化された世界」、冬月の「混沌とした世界」もそれぞれ「生物が存在しない(≠できない)世界」「生物が存在できる世界」と考えれば矛盾はありません。L結界の解除はそのままセカンドインパクトの秘密や原因を探る事になるのでゲンドウやネルフの管轄外、ことによれば邪魔な存在となるでしょう。

 当然、L結界の性質というのは作中で明示されていないばかりか手がかりになる描写もほとんどありません。ガバガバ考察なので、公式設定が明かされた日には2時間かけたブログを削除したくなるほど恥ずかしい思いをするでしょう。しかし、セフィロートの樹を通して物語を俯瞰し、こうして一定の考察を得ることはできました。
 大切なのは考える事だと思います。
 その考える手段としてアニメを、考える指針としてセフィロートの樹を使う。AIにはできない、その人だけの千差万別の方法で考える。それこそが人間が人間であることの証明です。