上杉アイクの机上で空論

独特の感性で森羅万象を考えます

税金炎上取引 ユニティ

 「ゲームエンジン」というものがあります。

 

 SFCの第4世代ゲームコンソールまでは、「少数のゲームクリエイターが短期間で作成した」という逸話のあるゲームも多く、「ファイナルファンタジー」や「MOTHER 2」、「E.T.」等は、良くも悪くも有名でしたが、N64やPS、SSが登場した第5世代以降、顕著になった「ゲームの複雑化」によって、ゲーム事情は大きく変化しました。

 ゲームのコンピューターとしての性能が上がった事によって、プレイヤー側にとって「やる事」が多くなってしまい、結果としてゲーム離れが起き、ゲームが以前のように売れなくなってしまいました。そして、ゲームクリエイターにとっても、ゲームにアレもコレも詰め込めるようになった反面、ゲームコンソールの性能に依存してしまい「アレもコレも詰め込まざるを得なく」なってしまったのです。

 特に第5世代~第7世代のゲームは、猫も杓子も「美麗なグラフィック!」「広大なフィールド!」「豪華声優陣!」謳っていましたが、それはゲーム制作において手間のかかるものばかり。制作に莫大なお金がかかるのは当然として、スタッフの人数も激増したり、時間もかかり・・・ビッグタイトルになれば、年単位で、百人単位のスタッフが、億単位のお金をかけて作るのが当たり前。それならばと、低価格でシンプルなゲームを販売すれば「内容スカスカ」と文句を言われる。

 当然、各社がマーケティングをしっかりと行い、少なくとも元は取れるようにゲームを作るのでしょうが、膨大なリソースがゲーム制作というのは、どうしても「売ってみなければ分からない」部分があり、年々、そのリスクは加速度的に高まる。

 そんな中で活用されているのがゲームエンジンです。

 

 極めて簡単に言えば、ゲームエンジンとは「ゲームのテンプレート」です。

 マリオのようなアクションゲームを作りたい、ドラクエのようなRPGを作りたい、そんな時に、イチからプログラムを打ち込むよりも、アクションゲームならアクションゲーム用の、RPGならRPG用の、テンプレートのようなソフトがあり、その枠組みの中で、キャラクターやマップ、音声・音楽、固有の動き・・・といったものを当てはめていくことで、ゲーム作成のリソースを、ある程度軽減できるのです。

 当然、作り手の技術によって、同じゲームエンジンから全く別のゲームを作ることも十分可能ですし、逆に、今まで体力のある組織でしかできなかったゲーム制作の裾野が広がり、中小のゲーム会社から独創的がゲームが発売される事も増えてきました。「アンダーテイル」なんかはその代表ですね。

 

 さて、そんな便利なゲームエンジンにも複数あり、メーカー内製の、最近リメイクのが多いバイオハザードシリーズで使われている「REエンジン」や、「Ⅴ」以降相当物議を醸した感があるメタルギアシリーズで使われている「FOXエンジン」が有名ですが、やはり、ゲームエンジンの2第巨塔と言えば「Unreal Engine」と「Unity」です。

 どちらも広く使われていますが、Unreal Engineのウリは何といっても綺麗なグラフィック。所謂「ビッグタイトル」に良く使用されています。逆にUnityのウリは使いやすさ。ビッグタイトルは勿論のこと、スマホゲームにも活用されていますし、小規模のゲーム制作にも活用される傾向があります。

 特にUnityに関しては「原神」や「ウマ娘プリティダービー」、「ポケモンGO」と、非公開のものも含めれば、かなりのゲームに使われていますし、Unreal Engine共々ゲーム以外にも、アニメ等の映像作品にも、時にビジネスソフトでも使われている事も多く、今や、ゲームエンジンは我々の生活になくてはならない存在になっています。

 

 さて、そんなゲームエンジンの代表格の一つのUnityに、とんでもない騒動が起こっています。

 「ITmediaNEWS」によると、

統合開発環境「Unity」の新料金体系「Unity Runtime Fee」に、多くの開発者が反発している。2024年1月以降、従来からの定額(月額または年額)料金に加え、一定規模以上のゲームから、1インストールごとに料金を徴収するというのだ。

 米Unity Technologiesは、新料金への反発があることを認めつつ、「顧客の9割以上は影響を受けない」「課金は1回きりだ」などと説明している。

 Unityはこれまで、学生や趣味の開発者向けに無料で利用できる「Personal」、プロの個人やチーム向けの「Pro」(月額2万4420円/年額26万7960円)、企業向け「Unity Enterprise」(個別見積もり)などを提供してきた。

 Unity Runtime Fee導入以降は、ゲームの収益とインストール数が一定(Personalなら20万ドル/20万インストールなど)を超えている場合、月額/年額料金に加えて、新規1インストールごとに最大で0.2ドル(約30円)が徴収される。

 突然発表された新たな“Unity税”に開発者は反発しており、Unityから別のゲームエンジンに移行すると宣言する企業も出ている。

 反発を受けてUnity Technologiesは、Xに釈明を記載。「顧客の9割以上は影響を受けない」「成功しているクリエイターにとっても、1回限りの料金であり控えめな金額」「再インストール料金や体験版には料金はかからない」などと説明しているが、開発者は納得していないようだ。

 まあ、要は「Unityを使ったゲームで儲けている会社は、1ダウンロード毎に最大30円くらい払ってね」とUnityを作った会社が言ってきたってことですね。

 

 このニュースを聞いた時に、真っ先に思い浮かんだのが、大手ゲーム会社への影響。現在では、大手ゲーム会社もスマホゲームの課金が重要な収益源となっていますが、スマホゲームというのは、圧倒的多数の無課金プレイヤーが遊べる環境を、一部の課金者が維持しているという、コンシューマゲーム市場からすれば異常としか思えない構造が一般的です。しかも、最近のスマホゲームですら、ゲーム制作するだけで億単位のお金は平気で必要ですし、ゲームの環境を維持するための設備やスタッフといった「維持費」というコンスタントなリソースが必要です。そんな構造のスマホゲームを運営している会社に「1インストール毎に30円をUnityを作った会社にライセンス料を払ってね」なんて通達した日には・・・どうなるのかなんて、火を見るより明らかです。

 また、コンシューマゲームにとっても対岸の火事ではありません。

 基本的にコンシューマゲームはあらゆるリソースが必要で、様々な職種の会社がそうであるように、多くのゲーム会社では「シリーズものの1作目ででた収益を使って2作目を作る」といった制作体制が普通です。それなのに、ダウンロード販売で同様のライセンス料を払う事になれば、ダメージは決して小さくないでしょう。

 何より、小規模な制作体制でありながら、創意工夫を凝らしてヒットしたダウンロード販売専用ゲームにとって、新たなライセンス料は大きな痛手になります。何せ、皮肉なことに「ヒットすれはするだけお金がかかる」仕組みなのですから。

 それ以外にも、「Unityを作った会社の幹部が、新料金発表の直前に会社の株を全て売却していた」という完全に論外な情報まで出てくる始末です。

 

 また、「ゲームのダウンロード数に対してのライセンス料」というのも厄介な話です。

 ゲームをダウンロードできるサービスと言えば、「グーグルプレイ」や「アップストア」、「ニンテンドー eショップ」や「プレイステーションストア」や「steam」等、それなりの数がありますが、例えばそれらのサービスのダウンロード数をカウントするのであれば、スマホゲームのリセマラをやられただけで会社は大打撃ですし、複数端末での複垢行為も十分すぎる影響があります。なら「リセマラ行為はカウントしません」となった場合、少なくとも紐づけされているアップルIDやグーグルアカウントは第三者の目に晒されますし、ただでさえ個人端末の走査への疑念が強い特亜系のゲーム会社であれば、ここぞとばかりに個人情報を吸い上げるでしょう。

 所謂「中華タブレット」の中には、グーグルプレイではなく、如何にもなアプリのダウンロードサービスがプリセットされていますが、そこからゲームをダウンロードするのは、それは「勇気」でも「蛮勇」でもなく、ただの「愚行」ですし、そこですらダウンロード数の提供を受けるのであれば、Unity自体も相当「黒い」黒い事になってしまうし、ダウンロードサービス側でダウンロード数をカウントするのあれば、制約が無くなるのは最早「野良アプリ」だけとなってしまいますし、そんなアプリをダウンロードするなど「愚行」を通り越して「破滅願望」です。

 また、「ニンテンドー eショップ」や「プレイステーションストア」や「steam」で相当問題になっている、粗製乱造されたゲームには何の影響もないのも問題です。

 Unityの一番のウリはゲーム作成のし易さです。また、UnityやUnreal Enginといったメジャーなゲームエンジンには、「アセット」と呼ばれる様々な専用素材が販売されていて、例えば「ゲーム画面に雰囲気のあるオブジェクトが欲しいけど、自分では作れない」という時は、アセットを買って使う事もできます。

 そのため、小規模な開発環境、ひいては個人ですらゲームを作れてしまいます。

 大きなゲーム会社では作れないような発想を形にするために、個人が作ったゲームというのは、ゲーム自体の評価は良くないかもしれないけれど、努力はしている、言わば「善意のゲーム」です。

 では「悪意のゲーム」とは?

 ゲームエンジンや上記の「アセット」を買って使う事は、決して悪い事ではありませが、なら、ゲームエンジンとアセットを買い、それを「ゲームっぽく」組み合わせて、極めて短時間でゲームを作って、それを100円とかの異常な安い値段で売って、少数の安さにつられた人が買ってプレイして、「まあ、100円ならこんなものか」と納得はして特に文句も言わず、ゲームの「作り手」も元は取れる・・・こんな「兎に角最低限の手間でゲームを作って、それを売って元を取って」というサイクルを繰りかえす「ゲーム制作者」が、しかも少なくない人数が存在してしまっていて、そういう人たちが作る「ゲームエンジンとアセットだけで作ったゲーム」を「アセットフリップゲーム」と呼び、「悪意のゲーム」なのです。

 「ニンテンドー eショップ」で、時計のようなサムネイルのゲームが「それぞれ別のゲーム」として、一画面に大量に表示されたことがあり、ゲームファンの間で深刻な問題としてとられました。

 結局、ダウンロード販売によるライセンス料が発生しない、アセットフリップゲームばかり売る制作陣のみ、という事になってしまいます。

 

 僕は大なり小なりゲーム制作に関わる人たちに対して、リスペクトを持ち続けています。

 馬場英雄のように、ブログで非難することもありますが、それも、「ゲーム制作に関わっているのに、なぜそんな所業ができるのか」という思いがあるからです。

 ちょうど社会人になって、Wiiという第7世代のゲームコンソールが表れて、ゲーム制作に関わっている人達だって、みんながみんな高い志を持ってゲームを作っている訳ではないことも今は十分理解しています。

 馬場英雄のような問題人格の持ち主だってゲーム業界にはいるし、「ソニックザヘッジホッグ」という名作を生み出した名クリエイターの中裕司氏が、「バランワンダーワールド」という駄作を生み出してしまった挙句インサイダー取引で逮捕されてしまうという、任天堂とは立場が違えど尊崇の念を持っていただけにとても悲しんだ事例もあります。最近はスクエニコナミ等、過去に「名作を次々に生み出した」はずなのに明らかに迷走している会社も少なくありません

 それでもやっぱり、ゲームを作っている人たちはすごいと思っているんです。

 「自分の思い描いた事」を形にするって、とてもすごい事なんです。何かしらの制約があって、「自分の思い描いた事」とは程遠いが出来上がってしまったとしても、それでも「形を作り上げる」ことは、誰にでもできる事ではないんです。

 例え労働のなかで、ゲームに対する思いが変わってしまったとしても、それでも「ゲームを作り続ける」という事自体が、ゲームファンとして、リスペクトしたいと思えるのです。

 それなのに、今回のUnityの件は曲がりなりにも真面目な理由でゲームを作っている人に対しては影響があって、ライセンス料が確実に発生しないのは、ゲームに対する理念も情熱も創意工夫もなく、利益の為だけにアセットフリップゲームを作っている人達が圧倒的に多く、「善意のゲーム」を作っている人達も批判に巻き込まれてしまうだけなのです。

 

 「次からはUnityを使わない」という声明を出すゲーム会社もありますが、シリーズモノだったとしても、別のゲームエンジンをイチから使うのは相当の負担でしょうし、Unityを使った既存のゲームのDLCを別のゲームエンジンで作るのも現実的とは思えません。

 そして、ゲーム会社の負担はゲームファンにも、必ず、何らかの形で降りかかってきます。 

 

 上記のインサイダー取引は論外として、Unityを作った会社にも言い分があるとは思いますし、会社である以上、その言い分を100%否定することはできません。

 でも、ゲームを作ったり、楽しんだりする、ゲームに関わる全ての人に対しての影響が余りにも大きく、「影響受けない」人の大多数は、ゲームに関わる全ての人にとって有害な、排除すべき存在なのです。

 ゲーム業界にとっては、正に「誰も幸せにならない」Unityのライセンス料の改定。

 他のゲームエンジンを作っている会社の出方次第では、ゲームの定義すら変えてしまうかもしれません、