上杉アイクの机上で空論

独特の感性で森羅万象を考えます

レイを初号機に乗せると何が危険なのか

 「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」の賛否が分かれている原因の一つに、「『序』『破』に比べてお話が分かりにくい」というのがあります。様々な裏設定と思しき意味深な会話も少なくないけれど「攻めてくる使徒を巨大ロボットで迎撃する」という分かりやすいお話が主軸だった「序」「破」に比べて、「Q」では迫力がある戦闘シーンがあれど大筋では「意味深な会話」が続き、しかもその中心はモノをハッキリと言わないゲンドウのため、ただのロボットアニメとして観ると「バイザー付けたおっちゃんとその側近っぽいじいちゃんとやおいフラグと死亡フラグを存分に立てたカヲルちゃんが分かるような分かんないような事を延々としゃべっている映画」になっている感があります。
 では「Q」でのゲンドウの会話を丹念に聴いていればお話が分かるのでしょうか?
 まあ、無理でしょう。「Q」での会話はそれ以前の会話を理解している上で、考察厨が日々ネットに書き込んで、最近はゆっくりにしゃべらせて動画にしているのです。
 それだけ難解なゲンドウの目的を考察する糸口、低学歴のアイクでも見つけられるような綻びこそ、「序」の終盤、第6の使徒によってネルフが一時撤退を余儀なくされ、ヤシマ作戦の準備が着々と進む中で発せられた、
冬月「最悪の場合、洗脳か?」
ゲンドウ「ダメならレイを乗せるまでだ」
冬月「レイを初号機に?余りに危険すぎないか!?」
です。

 「序」が公開された当時、「初号機がリリスの身体が使われレイにリリスの魂が入っている」という設定が視聴者に色濃く残っている中でこのセリフは「初号機にレイが乗ったら26話の『ただいま』『おかえりなさい』が起きてしまうから」と解釈されていました。実際僕もそう思っていましたが、改めて観直すと、この設定を知っていようといまいとこの会話は決定的に矛盾している事に気づきます。
 その上で考えた、「何故レイを初号機に乗せるのが危険なのか?」は
レイが初号機に乗ると何が起きるか分からないから乗せない方がいい
です。

 は?それ考察になってねーじゃん。画面のスクロールに使った時間を返せ!!

 結論だけ見るとそうなりますね。なら、上記の会話と矛盾点を上げつつ、ゲンドウの目的の一面を考察していきます。

矛盾点1:「序」開始直後、シンジに初号機に乗る事を拒否られた際の会話
ゲンドウ「レイを起こせ」
冬月「使えるかね?」
ゲンドウ「死んでいるわけではない、レイもう一度だ」
 あれ、フツーに乗せようとしてない?
 もし本当にヤバイなら冬月に「レイを初号機に乗せる」という選択肢自体が無いのだから「起こしてどうするのか?」とか、仮に察したとしても「やめろ碇」と言ったりシンジの洗脳を提唱したりするはずです。そう、まるで怪我してでも初号機に乗ろうとするレイさえ見せればシンジは「乗ります」と言うことが分かっているように・・・

矛盾点2:「序」終盤、表題の会話の後の会話
ゲンドウ「如何なる手段を以てしても、我々は後8体の使徒を倒さなければならない」
冬月「全てはそれから、か」
 「破」中盤、ゼーレに3号機を押し付けられ初号機の運用をストップさせられそうになった際の会話
ゲンドウ「真のエヴァンゲリオン、その完成までの露払いが現機体の務めというわけか」
冬月「それがあのmark.6か?偽りの神ではなく、ついに本物の神を作ろうというわけか」
ゲンドウ「ああ、初号機の覚醒を急がねばならない」
 「破」終盤、初号機が覚醒した際の会話
冬月「やはりあの二人で初号機の覚醒は成ったな」
ゲンドウ「ああ、私たちの計画まであと少しだ」
 もし「初号機にレイが乗ったらサードインパクトが起きる」のであれば、「破」の「あと8体の使徒を倒して」いない状態で初号機を覚醒させようとするのはどう考えてもおかしいです。「使徒を8体倒す」の後に「初号機を覚醒させる」のシーケンスを守る必要がないのならば、「破」を待つまでもなく第6の使徒襲来の前、レイの怪我が治った後にさっさと乗せればいい話です。

矛盾点3:「破」の第9の使徒殲滅後、シンジがネルフを去った際
ゲンドウ「初号機パイロットは抹消、以後の運用はダミープラグを基幹とする。代わりは不要だ」
第10の使徒襲来時にゲンドウは初めからダミープラグで初号機を動かそうとした。
 「序」で同じような状況になった際、二人は「シンジの洗脳」だの「レイを初号機に乗せる」だの話していましたが、「破」ではそれらを検討する事はなくダミープラグをアテにしているような言動しか見せなくなります。まるで、シンジを初号機に乗せたくないみたいに。

 と、「レイが初号機に乗ると何が起きるのか?」が分かっているのであれば出てこない言動が余りにも多いのです。
 ではここまでの論を以て先の結論としていいでしょうか?
 いいわけがありません。

 ゲンドウの一見して支離滅裂な言動からみえる、レイを初号機に乗せたがらない本当の理由、そして彼の目的とは何なのでしょう。?
 ゲンドウの、「パイロットとして見た」場合のシンジへの対応を時系列でみると、ある可能性が見えてきます。
1.「乗るなら早くしろ、乗らないなら帰れ!」
2.「結局、お前の息子は予定通りの行動をとったな」「ああ、次はレイを近づけてみよう」
3.「現時点を以て初号機パイロットを更迭、砲手をゼロ号機パイロットに切り替える」「碇!?」「使えなければ捨てるしかない」
4.「よくやったな、シンジ」
5.「シンジ、何故戦わん!?」「だって、アスカが乗ってるんだよ!」「構わん!そいつは使徒だ!我々の敵だ!」「でも、できないよ!」「お前が死ぬぞ!!」「アスカを殺すよりはいい!!」「構わん、全神経をカット、システムをダミープラグに全面切り替えだ!!」
6.「僕はもうエヴァに乗りたくありません」「ならば出ていけ!!また逃げ出すのか?願望とはあらゆるものを犠牲にして、自分の力で叶えるものだ。人から与えられるものではない。シンジ、大人になれ」
 こうやって見ると、ゲンドウは「必ずしも初号機のパイロットはシンジでなけれはいけない」と考えていない事が解ります。特に、第9の使徒戦での会話以降、明らかに「ダミープラグに戦闘させた方がいい」と考えています。
 では、「ゴルダゴベースからの厳封直送品で得体が知れない」ダミープラグをゲンドウはどのタイミングでアテにするようになったのでしょう?
 少し時間を遡ってシンジの言動の変化を見ると、シンジは「序」ではレイが危険な目に遭う可能性を少しでも提示されると、どんなに嫌がっていてもエヴァに乗る素振りを見せます。また「破」では「アスカを殺す可能性があるなら自分が死ぬ」と、比喩でもなんでもなく「必死の状況」でも言ってのけるようになります。
 また、第6の使徒の攻撃から回復した時、レイが「初号機に自分が乗る」と言って部屋を出ます。レイがゲンドウの悪口を言って引っ叩いた相手を自発的に見舞うとは考え辛く、「レイを近づける」の一環であり「初号機に乗る事を示唆させる」のもゲンドウの指示だったと考えるのが自然です。
 これをみると、シンジには「自分を犠牲にしても他者を守ろうとする素質」のようなものがある事をゲンドウが知っていて、様々な場面でそれを試しているように見えます。そしてサードインパクトの場面にて、ガフの扉が開いた時はシンジが「僕がどうなったっていい、世界がどうなったっていい、でも、綾波は!綾波だけは絶対に助ける!!」と言っている最中であり、レイが取り込まれる前でした。
 そうなると、初号機の覚醒、ガフの扉を開くために必要なのは「シンジがレイを助けたい」という意志である、という事がわかります。そして初号機の覚醒がゲンドウの目的の一つ。
 そうなると、ゲンドウの、シンジに対して何をしたかったか?について一つの明確な目的が「シンジに誰かを守ろうとする強い感情を植え付ける」ことであることが分かります。そして、第10の使徒襲来直前までは、そこまでの感情を持っているかどうかが不確定だったのです。しかし、シンジがそのような感情を持っても今度は「8体の使徒を倒す」には不適当です。実際問題として死にかけているし。
 ならば、そのような感情を持つようになったシンジエヴァに乗せるよりかは、別のパイロットで使徒を倒した方が都合がいいわけです。

 では本題。
 レイは「Q」での冬月の発言から、「綾波ユイ」のクローンであることが明言されます。同時に「ユイが初号機の制御システムになっている」と言っていて、いわば「初号機はユイそのものである」と言える状況です。「ユイ本人」である初号機に「ユイ本人」であるレイがパイロットとして乗り込むとどうなるのでしょう?
 「リリンの模造品だから魂の位置が違う」ので、普通に考えれば動くでしょう。しかし、これは言ってみればエヴァにとって「イレギュラーな処理」となります。言ってみれば「不正ツールを使用した動作対象外の行為」で、その時は動くかもしれないけれど、プロアクションリプレイを使ったプレステの如く後から運営に「お前PAR使った形跡があるからBANね」って言われる可能性があります。そして第9の使徒襲来の際にダミープラグを実際に使い、エヴァはその後ネルフ本部を壊し始めるまで問題なく動きました。即ち、ゲンドウは一連の出来事を「ダミープラグの動作チェック」として見ていて、初号機パイロットとして、レイ→不確定、ダミープラグ→確定と認識したのです。肝心の第10の使徒戦でダミープラグが使えなかったに焦ったのはその認識があったためと考えられます。

 そしてサードインパクトで「我々の計画まであと少し」と言ったのは、ゲンドウの目的が達成されました。
 今回の結論にしてゲンドウの大目的の一面、それは、
ゲンドウの計画における不確定要素の排除
 なのです。
 シンジとレイ、二人の不確定要素がなくなったためにサードインパクトが起き、世界は終わりを迎えるのです。

 ーそして
 ゲンドウにとって最大の不確定要素が出現し、
 排除のために「Q」で行動する事になります。
 月より飛来したゼーレの少年、渚カヲルによってー