上杉アイクの机上で空論

独特の感性で森羅万象を考えます

零号機の魂は誰のもの?

 8月に旧エヴァのコンプリートBDBOXが発売されました。ぶっちゃけいままで旧エヴァの映像ソフトは持っていなくて、考察はもっぱら貞元エヴァとシナリオブックが頼りでした。でもこれからは好きなだけ旧エヴァを観ることができる!ってなわけで、旧エヴァの考察でも話題にのぼりやすい零号機の魂についてです。

 結論から言えば、零号機に魂はありません。
 この説を唱える人の直接的な根拠は「エヴァンゲリオン2」の用語集ですが、このゲームはあくまで「監督公認の2次創作」。これで「結論」としようなどはルール違反でしょう。あくまでアニメから読み取っていきます。(あと「赤木ナオコ説」の反証)
 まずリツコの「本来魂のないエヴァには人の魂が入れてある」という台詞を聞くと、あたかも「エヴァンゲリオンは人の魂が無いと動かない」と思ってしまいます。「赤木ナオコ説」は主にこのシーンが根拠になっていますが、これは零号機と初号機の製作過程を時系列で見た場合、明らかな矛盾が出てきます。
まず、「E計画の雛型」として零号機を製作→人類補完計画の重要アイテムとして初号機を製作→ユイが初号機に搭乗、事故により魂が初号機に取り残される(→ナオコの魂が零号機に使われる?)
この時系列では明らかに「零号機の作り方をまねて初号機を作っている」のに、肝心の魂に関して「ユイの事故が起こるまで魂が必須だと判らなかった」ことになります。ユイの搭乗実験に関しても、冬月以外はあくまで「エヴァ側の『不具合』が原因」と考えていたようで、パイロット互換実験の暴走の際、リツコは「シンジ君を取り込むつもりなの!?あの時みたいに!」と、あたかも「零号機が人の魂を欲している」ような台詞を言っています。この時点でリツコが「零号機に『誰か』の魂が入っている」ことを知っていたら、このような台詞が出てきません。
 また「レイが零号機とのシンクロに8ヶ月かかった」というのも、間接的な根拠になりますが、さらに言えば「ほかのEVAの事情」を見たほうがよいでしょう。まず初号機には説明不要の碇ユイ、シンジは何の訓練もなしに初号機とシンクロできたのは「魂がユイだったから」という説明が作中で暗示されます。次に弐号機には土壇場で明らかになった惣流・キョウコ・ツェッペリン、シンクロ率が1ケタまで落ちたアスカも即操縦することができました。3号機にはトウジの母親、訓練を受けていないどころかEVAを嫌ってさえいたトウジも3号機を起動できたのです。弐号機の場合、アスカの精神に問題があったという反論が出てきそうですが、これも「精神に問題がなければシンクロできる」ということの裏返しではないでしょうか。事実「アスカの精神の問題」はキョウコの精神崩壊と自殺、直後の父親の再婚が直接の原因で、それが元で戦績を上げられないことに焦ったためにシンクロ率が落ちたのです。レイにはそのような過去は皆無であり、シンクロでできなくなるほどの問題もないのです。また「レイと同じ存在」であるカヲルが弐号機を動かした時、「魂が閉じこもっているため動かすのが容易」だと言って、さらに「初号機が倒さないと弐号機と同化してしまう」とまで言っています。このことからアダム系のカヲルにとっては、「アダムの分身の弐号機に魂がない」方がEVAとシンクロする分には有利であることが伺えます。「シンクロに8ヶ月かかった」というのはあくまで「動かすうえでのシンクロ」であり、無関係の(ナオコであった場合敵対している)人間の魂があったから全然シンクロできなかったと考えるのは早計といえます。もっといえば、ゼルエル戦でのシンクロの失敗から、レイが人とできるだけ関わらないように育てられた来歴が、しがらみに囚われずにシンクロできるような人間にすることにも留意しないといけません。
 また「EVAには心がある」という発言、注意しないといけないのは「心≠魂」という点です。「EVAの心」とは何ぞや?という話ですが、これはレリエル戦にしっかりと描写されています。ディラックの海に取り込まれた初号機が暴走する直前、シンジが「髪の長い女性」のビジョンを見ます。直前のシーンから「ユイでは?」と思ってしまいますが、その場面でのユイはレイと同じ髪型です。このことから「髪の長い女性」はユイではない誰かということになります。またゼルエル戦での暴走の際の、リツコの「やはり目覚めた、彼女が」という発言。彼女とはユイのことを言っているのは明白ですが、それ以前の暴走の際には言及しませんでした。つまり、以前の暴走はユイ以外の存在が起こしたともとれるのです。そうなると「零号機が暴走してレイやリツコに殴りかかったのは、魂がナオコだから」とは言えなくなります。初号機がそれ以降、25話まで暴走した描写がないのにも注意が必要です。
 またアルミサエル戦の直後のリツコの「このことは極秘とします」という一言。これを「零号機の魂がナオコのものだと確信する証拠を見た」とする向きがありますが、このシーン、「レイの遺体から魂を取り出すことができる状態たっだから」とは考えられないでしょうか?ゼーレの発言から「レイが生きていてはマズイ」ことが示されますが、ゲンドウの補完計画にはレイが不可欠です。あんまり「極秘」になってはいませんが、ゼーレのリツコの尋問から「レイの復活・生存」がいかに重大かが分かります。リツコとナオコ、ゲンドウが写った写真をリツコが憮然を見ているシーンも、「事ここに及んでも、自分たち親子がゲンドウやレイ、ユイに利用される存在である」と実感したためと考えれば矛盾はありません。
 つまり、「零号機に魂がない」と考えれば、零号機がらみの矛盾がほぼ説明がついてしまうのです。