上杉アイクの机上で空論

独特の感性で森羅万象を考えます

最大の被害者は岩松了と言っても過言ではないのだ

 多分昔から存在したとは思いますが、例によって「トリック」の成功により爆発的に増えたのが「コメディーミステリー」です。僕も「トリック」から入ったわけで、トリックやその系譜を受け継ぐ「富豪刑事」が放送されていた2000年代前半はドラマをよく観ていました。

 それから十数年、継続して視聴しているドラマは「相棒」ぐらいになって、その他に観るのも前購入したトリックや富豪刑事のDVDというドラマから遠ざかっていた今年、久しぶりに相棒以外のドラマを録画するようになりました。そう、「時効警察 始めました」です!!

 

 ストーリーは単純明快。「総武警察署」という架空の警察著にある「時効管理課」という架空の部署に在籍する警察官、霧山修一郎(訳してポツネン)とその相方である交通課の三日月しずかが時効になった事件を趣味で捜査するーという内容です。

 トリック→富豪刑事から続くテレ朝のコメディーミステリー枠の「時効警察」シリーズ。3者に共通するのは大抵の登場人物が全力でふざけにかかる点であり、それに加えてトリックなら「手品と物理学」、富豪刑事なら「異常なまでにお金のかかった犯人へのトラップ(そしてそれ自体は空振りに終わるけど、結果として犯人の尻尾をつかむきっかけになる)」、そして時効警察では「常人ではまず気付かない犯人のしぐさ」と、それぞれ特色ある謎解きを全力でふざけながら行うという、肩肘張らずにミステリーを楽しめるのが最大の魅力と言ってもいいでしょう。

 当然僕もリアルタイムで観ていましたし、前2シーズンのDVDは購入しました。しかも不幸なことに(?)登場する役者のほとんどが初見だったので、岩松了は単なるスットボケたおじさん、麻生久美子は9条教徒の件も含めていろいろとお花畑女優というイメージ僕の中でついてしまい、その後テレビで観た「CASSHERN」の上月ルナが麻生久美子だと気づいた瞬間、頭の中で霧山が半笑いで「え?ルナ役って三日月君だったの?プーッ」っとなってしまいました。

 主演のオダギリジョーも例外ではなく、他作品のクールな演技など知りもせず「パンにジャムを付けたらパンの味がしなくなる」って真顔で答え、時に下着泥棒の役も体を張ってこなす第二の阿部寛なイメージでしか見れなくなってしまいました。そういえば「Airpay」のCMでも似たような事してたよーな・・・

  

 さて、時効警察は前シーズンから12年の時を経ての復活となりましたが、「12年ぶりの新作」となると気になるのが「こんなの◯◯じゃねぇ!!」状態になってしまうことです。確かホビージャパンという出版社が発行した三国志大戦のムックにはイラストレーターのオリジナルイラスト及びコメントが多数掲載されていたのですが、その中に「以前自分が書いた絵に似せるのが意外と難しい」という旨のコメントがあり、「過去作に似せる」のはそんなに難しいモンなのか?と思っていたら、「メン・イン・ブラック3」でMIB本部の内装がガラっと変わってしまい「あーそういう事か」となりました。

 ある程度や継続して新作が作られていたトリックでさえ最初期と末期では作風が全然違っていたので、「人間の演技」が重要なドラマで「久々の新作」はかなり不安でしたが、それも新作SPで見事払拭!前シーズンから精々1年くらいのブランクがあるようにしか見えない、あの時効管理課がテレビに現れたのです。違和感を覚えるのは十文字の加齢と鑑識室の位置が変わったことぐらいという徹底した旧作のファンへのサービスは称賛に値すると言っても過言ではないでしょう。

 

 では前シーズンと全く瓜二つか・・・と言われると、「時効の事件を扱う」というテーマとは切っても切り離せない問題がどうしてもネックになってしまいます。

 トリックも富豪刑事もそうですが、ミステリーである以上事件が起きないとまさに「お話」になりません。トリックと富豪刑事では大抵、人死にや悪質な詐欺・窃盗といった凶悪事件が絡んでいて、それに因んだヘビーな設定や強烈なバッドエンド*1といった暗い要素が、単なるコメディーで終わらせない、最後まで視聴者に気を抜かせないスパイスになっていました。「母の泉」で警察の車を信者たちが取り囲んで「犬のおまわりさん」を歌うシーンなんか、初見では不気味ですらありました。

 時効警察においても「暗い要素」と言うのがあります。それが「時効」です。特に1シーズンで顕著なのですが、「趣味で時効事件を捜査する」事に明らかに嫌悪感を持つ登場人物が現れたり、「恋の時効は2月14日であるか否かはあなた次第」というエピソードでは「時効の是非」自体が幾度に渡って問われるなど、決して時効を軽く扱っていないスタンスが見受けられました。

 2010年に「死刑に当たる殺人」時効は撤廃されましたが、所謂「致死」罪以下に関しては最大30年の時効があります。「時効がある理由」としては、「犯人も何年も逃げていれば刑務所に入っている時と同じぐらいの苦労をするだろう」という一種の温情と、「長期間検挙されなければ、事実認定が困難になってしまう」純然たる事実がもとになっています。まあ、どっかの中核派の人殺しみたいにのーのーとしている奴もいましたが、大抵の人にとって「犯罪を起こした」上に「長期間逃げ回る」というのは並大抵の神経ではできない事です(時効警察でもこの苦労を示唆するシーンがあります)し、自白だけでは公判が維持できないし(これも時効警察で毎度とりあげられています)。決して「逃げ得」と書くつもりはありませんが、やっぱり人間が事件を調べる上での限界というものはあると思うし、厳密に適応すれば自転車で歩道を走る行為にも時効が設定されている以上、やはり「全ての犯罪について時効を撤廃する」なんて事は不可能に近いと思わざるを得ません。

 犯罪者は絶対的に悪い、と言うのは簡単です。殺人とか強姦とか窃盗とか明らかに問題外なのは別にしても、なら「自転車で歩道を走ったら犯罪」を厳密に適応したら日本人の大半が絶対悪になってしまいます。なら「問題外の犯罪」と「そんなの気にすることはない微罪」の境界線は?道で千円を拾ってもちゃんと交番に届けますか?・・・

 

 時効警察ではこういった時効についての問題提起とも取れる描写が毎回出てきますが、今シリーズでは以前にはない描写がありちょっと気になっています。

 霧山は「あくまで趣味」で事件を捜査しています。そのため犯人に対して「どうこうしよう」と思っていません。あくまで「あなたが犯人でしょ?」という問いと「誰にも言いませんよカード」を渡すだけです。それによる(元)犯人の反応は様々で、「楽になった」という人もいれば警察に捕まる事を覚悟する人もいます。一応捜査中の霧山を警戒する人もいますが、基本的に登場人物が危ない目に遭うことはありません*2し、捜査が終わっても基本的に(元)犯人の生活が変わることはありませんでした。

 しかし、今シリーズでは犯人だと分かった人が「一時休養を表明」したり「とある関係者への当てつけのために好きでもない相手と結婚」したりと、計4話しか放送していないにも関わらず明らかに人生に変化をもたらした例が多いのです。諸沢に「今回は深入りし過ぎだ」と注意された回もあり、この微妙なズレが単に作風の違いなのか何かしらのフラグのようなものなのか・・・と、作中でも「時効が撤廃された」と言う割に「時効のハンコ」は相変わらず仕事をするなど時効についてのそもそもの問題も相まって、些か「スパイス」が強めじゃないのかなと思います。

 

 まあ、シリーズで一番印象に残っているシーンは蜂須賀と十文字が本気で暴れまわって三日月が麻生久美子に戻って思わず吹き出し熊本が素に戻って2人を注意するという、ほぼ放送事故みたいなシーンなんですけどね。

*1:犯人が検挙前に自殺するのは序の口で、解決後に犯人が発狂する、当初の犯人の計画が達成されてしまう、子供が自発的に殺人に加担したことを示唆して終了など

*2:一度霧山がヤクザに捕まって掃除機による意味不明だけどなぜかエグイ拷問を受けた程度